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朦朧とした頭を振り、思考にかかった霞みを落としながら、私はゆっくりと目を開いた。
白い視界に、先生の姿が三重になったり歪んだりしながら浮かび上がる。
その顔には狂気が見え隠れしていた。
それでも私は状況が飲み込めず、身体を起こそうとする。そこで、自分の身体が椅子に縛られている事に気づいたのだった。
「な、何が……」
痺れてまともに動かない舌を動かし、それだけどうにか言葉にする。そう言いながらゆっくりと頭を巡らせると、妻が同じように椅子に縛られ、ぐったりとしていた。
先生に視線を戻すと、その隣には冷たい目をした、先生と同じくらいの年齢の女が立っている。
そしてその冷たい、狂った視線を私に向けていた。
「さて、聞かせて貰おうか」
「な……?」
「惚けるんじゃない。知ってるんだろう? 私達が此処で何をしたか」
「そうよ! あんたの奥さんが私を通してこの人のところに予約を入れたのは、あの事を知って私達を脅迫する為だったんでしょ!?」
金切り声に近い神経質な声で、女が先生の後を継いだ。
それでも私には、二人が何を言っているのか、何も理解出来ないでいた。
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