第三章

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 庭に足を踏み入れると、まず、芝生に座っているジャーマンシェパードが目に留まった。 ピンと背を伸ばして座っている姿を見て、「躾が行き届いた犬だな」と阪井は思った。 家のドアをドアを開くと、「どうぞ、お上がりください」と男は言った。 「お邪魔します」と言ってから、二人は玄関に上がった。 二人が案内されたのは、8畳ほどの広さの和室だった。 床の間には、色とりどりの花を活けた花瓶が置いてある。 「あの花は、奥様が活けられたんですか?」 阪井は訊いてみた。 「ええ、そうです。昔から花が好きでして」 そう言うと、男は表情を和ませた。 「それでは、お茶を淹れてきますので、少々お待ちください」 男は、そう言って和室を出て行った。 すると、山岡が小声で話しかけてきた。 「あの人、今は平然と振る舞ってますけど、昨日訪ねたときは大変でしたよ。到底、話を聞ける状態ではありませんでした」 「そうだろうな。一人息子が突然殺されたんだから、その悲しみは尋常じゃないだろう」 そう言いながら、阪井は、床の間に飾られた花々を見つめていた。
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