第四章

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 阪井は、事件について書かれた手帳を見た。 これまでに得られた情報は、次のとおりである。    ・被害者の死亡推定時刻は、午後4時30分である。  ・凶器は、恐らくカッターナイフである。  ・近隣の住人の話によれば、現場周辺に、黒のパーカーを着た怪しい男がいたという。  ・被害者は事件当日、大学に行かなかった。  ・被害者は事件前日、後藤隆祐と喫茶店を訪れている。 以上を踏まえて、事情聴収を進めてきた。 「じゃあ最初に、君の名前を教えてくれるかい?」 阪井は訊いた。 「藤本琢磨といいます。理学部の4年生です」 「そうか、じゃあ早速だけど、緒形君が殺された事件については知ってる?」 「俺は、事件についてはあまり知りません。次の日に大学に来て、初めて知ったんです」 藤本は事件について、そう答えた。 「じゃあ、一昨日の夕方は何をしてた?」 今度は、山岡が訊いた。  藤本は少し考えた後、 「家にいました。それで、読書をしていました」と答えた。 「最近、緒形君に変わったところはなかった?」 山岡は、続けて訊いた。 「いいえ、無かったと思います」 阪井は思わず唸った。 そして、彼からは重大な証言は得られないだろうと思った。
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