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「まず、最近緒形君に変わったところはありませんでしたか?」
阪井は、誠人にしたのと同じような質問を亜希子にした。
「変わったところですか?」
「ええ、ちょっとした事でも結構です」
「私が入院してから、こまめにお見舞いに来てくれるようになったことくらいだと思います」
亜希子は少し困惑したような顔で言った。
「そうですか。ありがとうございます」
その後の殆どの質問に亜希子は、知りません、或いは分かりません、と答えた。
阪井は、やっぱり、と思った。
誠人に訊いても分からなかったことが、亜希子に訊いても分かる筈がないと思っていた。
だが、警察としては、被害者の母親である亜希子に話を聞いておかない訳にはいかないのである。
「ありがとうございました。それでは失礼します」
話を聞き終えると、二人は丁寧に頭を下げた。
阪井が背を向けた瞬間、亜希子が呻き声を上げたのが聞こえた。
振り返ると彼女は、腹を押さえてベッドに突っ伏していた。
「大丈夫ですか?」
傍らにいた老婆が言った。
「大丈夫です。ちょっとお腹が痛んだだけです」
亜希子は、老婆に笑顔を向けた。
しかしその笑顔は、僅かに歪んで見えた。
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