一章

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『限りなく人間に近い機械』は『世界の全てを賄う機械』の研究の一端。つまりはあの女も少なからず関わっている。  それが目の前にいる。家にいる。話し掛けてきている。それだけで怒鳴らずにはいられなかった。 「いきなり出て行って、今更……今更のこのこ戻ってきてんじゃないわよ!!」 「落ち着いて下さい御嬢様」 「うるさい!!」 「御嬢様……」 「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」  分かってる。分かってる。  ただ造られたってだけで、こいつはあの女と何の接点もないって事は分かってる。  でも、叫ばずにはいられない。私はあいつが大嫌いだから。 「私に話し掛けるな喋り掛けるな私を見るな!!」  あいつと関わった全ての機械が大嫌いだから。 「消えて……」 「…………」  話なんて訊きたくない。話したくもない。 「私の前から消えて……」 「……はい」  辛辣な言葉を浴びせられたにも関わらず彼は気にも留めてない様子だった。彼が消え、ドアが閉まった音がした事からこの家から本当に出て行った様子だ。  殺伐とした雰囲気で一人残される。  気は晴れない。鬱憤も消えてない。むしろ虚しくなっただけ。  なんで。あいつが人だったから? 人間の姿をしてたから? 限りなく人間に近いから? それで情が移った?  そんなのありえない。機械に私が同情するなんて絶対にない。  じゃあ一体、この胸に深く刻まれた罪悪感は何。  こんな事初めてだ。  人型であろうと何だろうと関係なく機械を毛嫌いしてきた。けど、私が機械に対して胸が締め付けられるまでの自責の念に駆られたのは初めてだ。  心に棘が刺さったような、沈鬱な気分だ。 「……もうこんな所に居たくないや」  険悪なリビングを逃げるようにして私は家を出て行く。  玄関を出た所で、 「雛」  そこに雛がいた。
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