一章

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「先に行ってなかったの?」 「うん。一緒に行こうと思って迎えに来たんだけど。そうしたら怒鳴り声が聞こえて、心配になって。何かあったの京香」 「ううん。何でもないよ」 「嘘でしょ」  …………。 「京香は一人暮らしなのに、京香の家から男の人が出て来たの見たよ」 「あぁ、彼ね。彼は……」  口ごもった。これ以上は話せない。  これは私個人の問題。私個人の怨み。  友達は巻き込めない。雛なら尚更だ。 「……言いたくないなら言わなくてもいいよ」  雛は無愛想な私を察してくれた。 「いいの?」 「う~ん。本当は今ここで何があったか問いただして、何もかも洗い浚い吐かせたいところなんだけどね」  笑顔で怖い事言うなこの娘。  雛は一拍子間を開け、 「でも、もしそれで京香が傷付いたりしたら。悲しんだりしたら。京香と会わせる顔がないもん」  雛。そこまで私の事。 「あ、ありがとう」 「いえいえ、私は何もしてないよ。でもこれだけは約束してね」 「約束?」 「言いたくないなら言いたくないで、お互いどんな秘密事もなしっていう約束」 「うん分かった」 「それじゃ行こっか」      ◇       私の住んでいる街は『世界の全てを賄う機械』の技術が取り入れられても街並みに変化はなかった。けれど二色大学の街、『飛鳥(あすか)』は大いに違っていた。街の科学力を誇示するように『世界の全てを賄う機械』の技術が惜し気もなく披露されていた。
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