一章

14/34
前へ
/75ページ
次へ
 科学者として世界に名を馳せているお偉いさん方がステージ上にずらりと並んでいる。お偉いさん方に不審人物を近づけさせないように屈強な男達が周りを囲んで目を光らせている。そんな面倒くさい事するなら『立体映像(ホログラム)』で生中継すれば良かったのに。  それほどまでに自慢したい一品なのだろう。  その中に混ざっていた二色大学の校長らしき人物が前に出る。 「皆さんお忙しい中、貴重な時間を割いて我が校のプレゼンにご参加頂き心より感謝いたします。我が二色大学は学校と博物館の二つの顔を持っている傍ら、『世界の全てを賄う機械』の研究・実験を繰り返して参りました」  研究がおまけみたいな言い方をしてるけど、実際には学校がおまけで研究が本業だ。趣味程度の覚悟で『世界の全てを賄う機械』を造れたら誰も苦労しないよ。 「ですが、我々の努力に反し、中々良い結果を出せずにいました」 『世界の全てを賄う機械』の三割を造った肩書きを持っていたとしても、それが優秀とは限らない。英雄と同じだ。栄光と成功の裏には必ず何かしらの過程、努力がある。 「けれど、それでも私達は諦めずに研究を続け、我々でも目を疑うような成果を出したのです。世界の基盤を造ったあの『橘霙(たちばなみぞれ)』先生も成し遂げられなかった研究に」  しんとしていた会場が一気に沸き立った。  橘霙。その名で。  世界の全ては例外なく機械で賄えると提唱し、机上の空論を現実にした『世界の全てを賄う機械』を造った偉大なる人物。この便利な暮らしの基盤を製造した天才的な科学者。そして、最後の課題・難関である『限りなく人間に近い機械』の研究を残し、忽然と姿を消した消息不明の女性。彼女以上の逸材は未来永劫現れないとまで言われている私、『橘京香(たちばなきょうか)』の母。  二色大学と全くの接点がない渚未来がこのプレゼンに呼ばれたのも母が関係している。母、橘霙が通っていたから。その娘、橘京香が通っているから。それだけの理由。  私と母を一緒にしないでほしい。胸糞悪いから。 「…………」  校長は続ける。沸き立つ歓声を受けながら。 「機械で人間は造れないと世間は言うでしょう。しかし私は完成させた。霙先生が諦め、この二色大学に残してくれた希望を私は拾った。そして実現させた。『限りなく人間に近い機械』を!!」
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加