一章

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「こんなの撃ったら肩がイカれるわよ」  最悪の場合、腕が肩から千切れかねない。問題はどうやってトリガーを引くかだ。  何かオプションがないかとガラスケースを詮索。 「おお!! ちょうどいいのがあった」  三脚に似た、ライフル本体に脱着可能なスタンドが付属してあった。これに乗せて紐か何かでトリガーを引けば肩を危険に晒す心配もない。 「っ!?」  サァァ~ッと。  悪寒に似た嫌な風が髪をなびいた。  直感でタイミリミットが残り僅かなのを悟った。焦り気味に銃の設置場所へ向かおうとし展示物の角に足を打ち付けて転んだ。 「ぐほっ。ちょ、時間がないってのに――」  手に何かが触れていた。倒れた拍子に掴んだみたいだ。これは、糸。というよりはピアノ線に近い。肉眼では識別不可能なレベルの細さ。手に触れてようやくここにある事が認識できる。 「これって」      ◇  人工の人間は風を振り撒きながら博物館内へと到着した。風力で数センチ浮上した状態から緩慢な動きで床へ足を置く。  私は逃げも隠れもせず二メートルの銅像が取り囲む位置で人工の人間を待った。 「やぁ」  ご近所に挨拶するような語調で話す。 「驚いたよ。まさか真正面から向かってくるなんて。てっきり逃げたり隠れたりするのかと思ったよ」  男の声は人間そのものだった。ラジオや公衆電話から流れてくるような機械を通した声ではなく、目の前で対話してる正真正銘の肉声。しかも、悪意という悪意を根元から根こそぎ除去したような善人の声。 「うん。本当はあなたが言ってるみたいに逃げたかったよ。でも途中で止めた。逃げたらなんだかあいつに負けたようで後味が悪かったから」
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