一章

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 私はあいつが嫌いだ。  だから絶対に負けたくない。 「そうか。逃げないのなら僕の方も楽だよ。捕まえやすくてさ」 「あ、でも諦めたりしないよ? 諦めたらそれこそ後味が悪いからね。だから抵抗するよ」 「抵抗か。うん。実に人間らしくて羨ましい限りだ」  そう、私は人間。叩けば赤くなるし切れば血が出る。あなたみたいに優れた機能は持ってない。だから補う。 「ねぇ、これ見える?」  両手の指先に巻き付けてあるワイヤーを照明にかざす。光を反射して大まかな長さを示した。 「細すぎてよく分からないな。ピアノ線か何かみたいだけど」 「ん~大体合ってるかな。詳しく説明するとこれは炭素で造られた極細のワイヤーだね」  私は自慢げに説明する。 「これには種類が二つあって用途が大きく別れてるの。一つは切断用。巻いたり触ったりする程度なら無害なんだけど、百キロ以上の力で引くと材質に関係なく切断できる優れもの」  ペラペラと説明口調で続ける。いかにこれを強調するか。印象に残させるか。それが鍵。 「そんでもって、今指に巻いてるのは運搬用。重い物を持ち上げられるように耐久力を底上げしたもの」  どっちも肉眼で確認できないとの理由で目視レベルまで増やされたんだけどね。と付け加えた。 「凄いな。技術はそこまで進歩してるのか」  その技術があなたを造ったんだけどね。自覚してる? 「でも僕には一つ分からない事があるな」 「ん、何が?」 「君が手の内を僕に教える理由だよ。僕を迎撃するつもりなら不意打ちやら闇討ちやらで奇襲すればよかったのに」  私は指先のワイヤーを弄った。  辺りの銅像が微動する。 「手の内を見せる理由? そんなの簡単よ。あなたに勝てる絶対の自信があるから!!」  力任せに指先のワイヤーを引いた。ワイヤーが引っ掛けてある銅像、展示物、ガラスケースがバランスを崩し倒れる。四方八方から鈍器と凶器が男を殴り殺しに掛かった。 「(こいっ)」
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