一章

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 ヴゥワッっと。人工の人間から破裂した風が銅像も人間も差別なく拭った。私も例に漏れずに大きく飛ばされる。同時に、胴に繋いであったワイヤーが壁の向こう側に設置されたライフルのトリガーを引いた。撃ち出された荷電は大気との摩擦でプラズマ化し、壁、床、天井、ありとあらゆる障害物を焼き撃ち貫いた。目前をオレンジ色の光が一閃し、柱を撃ち抜いて男の鼻先を掠めた。 「やばっ。外れた」  人工の人間は一瞬面を食らいながらもすぐにいつもの表情にかき消して、 「これは驚いた。荷電粒子砲か」  プラズマの尾を愛おしそうに撫でる。 「狙いとタイミングも申し分ない。初めの会話でワイヤーに注意を引き付け、僕の風を逆手にとって射撃のトリガーにし、行動後のスキを突いて一撃必殺の短期決戦。うん、悪くない。人間の君が僕に勝つには何か工夫が必要不可欠だからね。でも、残念だったね。肝心の磁場の影響を計算に入れていない。それさえあれば確実に僕の頭を貫けたのに」 「磁場の影響?」 「ん、知らないのかい? ワイヤーのお礼も兼ねて僕が説明してあげるよ。荷電粒子砲はね、荷電粒子、つまりは電気を帯びた弾を弾丸にして打ち出す兵器なんだ。電気を帯びているという事は磁石みたいにS極N極があって、反発したり引かれ合ったりする。そこで問題になってくるのが地球が持ってる磁力。荷電粒子も例外なく地球の磁力に影響されて軌道がズラされる。理解できた?」 「え、え~っと……」 「ん? 分からないかい。それならもっと簡単に――」  こっちも伊達に渚未来に通ってるわけじゃないからその説明で外れた原理は理解できる。ようは地球に引っ張られてるって事でしょ。  でもね、問題は軌道がどうとかじゃなくて、私が撃ち抜いた柱の方なんだよね。  そ、その、この部屋の支える唯一の柱に大穴を開けちゃったから……。 「ん、これは」  人工の人間は天井の微細な破片が空に漂っているのを不思議がった。  私達の上で、支えが脆くなった天井は形を保てなくなり、キシキシと不吉な悲鳴を上げている。  破片に触れたのと同時だった。天井の重さに耐え切れず、柱は折れた。そして柱に後追いするように天井も同じ末路を辿る。気を緩めていた人工の人間は、天井を確認する間も与えられずに瓦礫の山に潰され埋まった。  粉塵が舞う。
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