一章

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「ごほごほっ」  え~……っと、こういうのを棚からぼたもちって言うのかしら。 「や、やったの?」  呼び掛けるも返答はない。只の屍のようだ。 「し、死ぬかと思った」  肩の重荷がなくなり、壁に座りかかる。よかった。なんとかなった。元々、私の手札は時間的に荷電粒子砲一択だけだったから外れたときは詰んだかと思った。もしこの天井の落下でもダメだったら今度こそチョックメイトだ。もう手札はない。 「フフ、太陽が眩しいぜ」  ポッカリと穴が空いた天井から覗いた、雲一つない蒼穹が私を祝福してくれているみたいだ。今更ながら無性に喜びが溢れてくる。 「フフ、フフフ。フハハハハハ!! どうよ、どうよどうよ!? 人間様に逆らうのがいけないのよ!! 勝者が正義!!」  …………。いまの台詞はまるで私が悪役みたいね。まぁ、勝ったから悪役でも脇役でも主人公でもどうでもいいけどね。どうよ母さん。あんたが造った機械、私の手で葬れたわよ。……これで少しは見直してくれたりするのかな。 「……あ、れ……?」  疑問。いや、違和感。自分自身の言葉に何か引っ掛かった。とても重要で確信に迫るよような一言だ。無視してはいけなくて、無視できなくて、無視しようにも無視できない世界のルールに似た事を私は言った。これだけは絶対に見逃してはいけない。  じゃあ、私は何と言った? 「人間?」  違う。もっと後だ。  確か私は「機械」と言った。  瓦礫の山が僅かに揺れた気がした。 「(あぁ、くそ。最初から気付くべきだった)」  ガラガラガラと瓦礫の山は崩れていく。中身を外界に晒しながら。人工の人間には届いてさえいなかった。天井の破片は、背中から形成された二体一対の翼型スラスターに阻まれ、衝撃は機械独自の頑丈さで緩和されていた。  私はあまりにも相手を安く見積もり過ぎていた。相手は機械。幾ら身体を彩ろうが着飾ろうが本質は変わらない。血肉はなく全身は鋼鉄の鎧で出来ている。身体中を駆け巡っているのは生態電流を模しただけの電気。『限りなく人間に近い機械』の根本は機械。これはどうやったって覆しようのない事実。 「ふぅ……」
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