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「(な、何よ……これ)」
自分でも気付かないうちに私は無意識に押し殺していた。機械に対する恐怖というものを。だって認めたくなかった。大嫌いな機械に怯えている自分の姿を。
でも死の間際に立たされた私は正直だった。私は怖かった。身体は怖くて震えてた。さっきは生きる事に必死で怖さなんて忘れてたけど、今になって、追い込まれた今になって、忘れていた恐怖がよみがえった。
怖い。このまま何も抵抗できずに終わる。怖い。
手足が鉛のように重い。身体が動かない。
なのに、粛々と、ひたひたと、恐怖は迫ってくる。
駄目だ。何も出来ない。逃げようにも戦おうにも身体が無視する。
駄目だ。怖くて目も開けられない。
駄目だ。誰か助けて。
誰でもいいから……。
「その手で御嬢様に触れないで頂けませんでしょうか」
その声も、金属を打ったような音も、全部が幻聴だと思った。
そして、アスファルトが砕けた鼓膜を叩くような振動が、虚ろだった景色と意識を鮮明にさせる。
次に、グッと身体が持ち上げられた感覚があった。
「御無事でしょうか御嬢様」
凛とした顔立ち。藍色の執事服。感情が枯渇した空の双眸。
あぁ、どこか懐かしい。この光景が既視感を漂わせる。前にもどこかでこうして助けてもらった気がする。いつだっけ? 誰だっけ? あぁ、思い出せないや。
「御嬢様、遅れてしまって申し訳御座いません」
男は頭を下げ、冷静に謝罪を繰り返す。
「うはっ。今のは死ぬかと思った」
壁に埋めり込まれた人工の人間は自分の身体が無事かを確認しながら問いかける。
「けほっ、けほっ。まさか殴られるとは思ってもみなかった。ところで君誰? この僕を殴り飛ばせるんだから人間ではないようだけど」
「御嬢様、これをどうぞ。落し物です」
あ、何気に無視した。
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