一章

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 渡されたのはペンダント。先端に水晶が取り付けられたペンダント。何も残してくれなかった母が私に残してくれた唯一の母との繋がり。 「道中に落ちていたので拾いました」  きっと風で飛ばされたみたいだ。だけど、幾ら風が原因でも私がこれを落とすなんて。 「あ、ありがとう……」 「いえ」  そうだ。私は謝らないといけない。こいつに謝らないといけない。機械相手に謝るのは気が引けるけど、それじゃあいつまで経っても胸に詰まったこの罪悪感は拭えない。  だけど、それでも機械相手には謝りたくなかった。だから意味合いを変えた。 「(そうよ、これは決してこいつのために謝るんじゃない。自分のために謝るの。胸に刺さった棘を抜きたいから。そうよ。断じてこいつのためじゃない)」  喉元まで来た言葉を吐き出す。 「ご、ごめん」 「?」  に、二度も言わせないでよ。 「さ、さっきはごめんて言ってるの!! ほら、悪口言っちゃったから」  人間らしさを失った瞳は無言で「気にしておりません」と答えた。  ほんと不思議。『限りなく人間に近い機械』は思考も口調も感情も全て例外なく人間と同様。けどこいつは完全な真逆。感情はないし口調も機械的で淡々としたもの。思考は固く、柔軟性なんてない。まるで定められた物語に沿って演じる役者のよう。目の前にいる人工の人間と正反対。本当に『限りなく人間に近い機械』なのかを疑ってしまう。 「あ、あのさぁ」  申し訳なさそうな声が二人の間に刺さる。 「もしかして僕の事忘れてたりする?」 「うるさいです。あなたなど眼中にありません」  キリっと言い放った。温厚そうな人工の人間も不当な扱いに苛立ちを覚えたようで言葉に微量ながら棘を含ませる。 「僕が眼中にない? 僕を殴っておいて? 酷いな。なら、無理矢理にでも入れさせるよ」  ソォ~っと、風が頬を撫でた。鳥肌が立つ不快な風。嫌というほど骨身に染みた風。  その風を声が上書きした。 「私は貴方に沈黙を求めます」  ヌェッと全身がダルくなったのと同時に館内を“何か”を叩き付けたような衝撃の揺れが襲った。吹き荒れる風はキャンセルされ、視界の隅に人工の人間がうつ伏せでひれ伏していた。
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