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「(え……何が起こっ――)」
「御嬢様の保護を第一に優先し戦闘を放棄。離脱致します」
状況の整理がついていない中で、身体を更に持ち上げられる。ここでようやく私は、自分がお姫様抱っこされているのに気付いた。
私がペンダントを首に掛けたのを見計らって、機械らしい人間は床をコンと、気休め程度に一蹴りした。
それだけで、たったそれだけで、
優に天井を越えた。
一気に、視界が瓦礫まみれの館内から白銀の爛々とした摩天楼の街並みに書き換わる。私は機械に嫌悪していた事を忘れ、その光景に見惚れた。
機械らしい人間は、近辺を反重力技術で走行している自動車のフロントガラスに緩やかに着地した。数十メートルから落ちた際の衝撃は身体を包み込んだ不思議な浮遊感によって中和された。
「より遠方へ、人混みの中へと紛れます。移動中の衝撃はこちらでどうにでもなりますが、万が一に備えて御掴まり下さい」
お姫様抱っこされてる状態でどこに掴まればいいっていうのよ。
「ちょ、ちょっと、人混みはダメよ。逃げるなら人気のないところに」
相手は私を、立ち塞がるものは何であろうと容赦なく退かすまで執拗に狙っている。その対象が無関係な一般人に向かないとは保障できない。だから私は反対した。人ごみは余計危険であると。
けれど彼は否定した。
「それは逆です御嬢様。相手は極力騒ぎを起こしたくないのです。その証拠に、二種類の妨害装置を使用している周到ぶりです」
電波の類を進入も漏洩もさせず、完璧にシャットアウトする妨害装置『電波遮断(ウェーブキャンセラー)』。
空気の振動を絶たせる事で音を消す妨害装置『音波遮断(ボイスキャンセラー)』。
相手はこの二種類の妨害装置を使い、力の膜を会場を包むようにまとらせ、内からの音と振動、テレビ局へ送られる電波を遮断し、外部との一切の干渉を許さず、完全で巨大な密室を作った。と彼は言う。つまり、相手はここまでの大規模な行為を行うまでに“何か”を隠し通したいのだ。だから沢山の人々の目に付く人混みは相手にとってもっとも相性が最悪。
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