一章

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「行きます」  彼は自動車を蹴りこみ、空中通路で繋がれたビル郡へと入り込んだ。枝木から枝木へと渡る猿の如くに空中通路を駆け抜け、飛び移りながら進んでいく。  中ほど進んだ先で無口だった彼が急に口をつぐんだ。 「来ます」  何が迫ってきているのかは大方予想できているつもりだった。私はその一点を否定したくて、間違いであってほしくて、考え過ぎであってほしくて、彼に尋ねてみた。  彼は機械的な口調で現状を伝える。 「『限りなく人間に近い機械』第一号機個別機体識別ネーム『ウィンネル』。後方数キロ地点より急速接近中。十二秒後に接触」  目を細めると、確かに黄緑色を基調とした米粒程度の“何か”が迫ってきている。それが人工の人間だと判るのに時間は必要なかった。 「速めます」  一蹴りで五百メートル離れた空中通路に着地しさらに蹴り込んで人工の人間との間合いを大きく切り離す。一蹴り五百メートルの速度を全く緩めずに、複雑に交差しあう空中通路を針の穴を通す正確さで駆けていく。相手も速度を増してきているので距離にこれといった変化は訪れないが、先頭はこっちが取っているからこのまま行けば確実に逃げ切れる。  と思っていた矢先だった。  ――キュュイイイイイイイン!!  鼓膜を裂くような音を耳にしたのは。  間髪入れずに左右のビルのガラスがヒビ割れ、外側に盛大に砕け散った。更にどこからか吹き抜けた風がガラスの破片を後押しし、鋭利な矛先を私達に晒した。  彼は足を止め、きびすを返す。  空中で私を脇に抱え直し空中通路の屋根に足を置いた。声を出す余裕もない私に対して彼はひどく冷静な動きで空いた左手を突き出した。  その手が、指先から次第に黒く染まっていく。闇より黒く夜空よりも暗く。漆黒に。  さらに、胴体から指先にかけてPC回路に似た模様が繋がれる。黒き腕に浮き上がった
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