一章

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「お、はよう」  隣の席にいたご近所さんに目覚めの挨拶。  雛は授業を続けている先生に聞こえないよう私の耳元で、 「どうしたの? 京香が授業中に寝るなんて。それに泣いてたよ」 「え?」  泣いてた?  私があの女が出てくる夢で泣いてた?  あるはずがない。そんな事絶対に。 「あ~……多分、生理的な何かだと思う。うん」  私は自分を誤魔化した。  認めたくなかった。私があの女で泣いていた事実を認めたくなかった。 「授業中に熟睡するまでに夜中なにかしてたんでしょ」 「いや、別に夜中に特に何かしてたわけじゃないんだけどさ。何かな。ほら、あの先生の声って子守唄みたいじゃない?」  あの先生というのは私が寝ていた授業の先生。声に眠気を誘う魔力でも練り込まれているんじゃないかと錯覚させるほどに先生の声は心地いい。  ちなみに蛇足になってしまうが、占いやら風水やらのオカルト関係は『世界の全てを賄う機械』の技術が完成されてから全て、科学的根拠に基づいて完全否定された。だから道端でキャッチされて胡散臭い商品を売られる事は少なくなった。 「え~、それでは今やった問題を順に解いていってもらいます」  あ~駄目だ。この声を訊いていると眠くな…………ん?  今、問題を順に前から解いていくとか言わなかった? 「今のって空耳だよね」 「現実でーす」 「私、寝てたので内容が全く頭に入ってないのですが」 「ノートによだれ垂れるくらいだもんね」 「ちょ、それは乙女として黒歴史なんだから言わないで」 「了解。フフフ、脅迫の材料がこれまた一つ」  今、雛の闇の部分があらわになった気がするけど……。 「一生のお願い雛。ノート見せて」  お構いなし。今はこれだ。 「うふふ、どうしよっかな~」 「頼む」  この間にも前方三人目まで順番が迫っている。 「ジュースが飲みたいな」 「?」
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