一章

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「五本くらいあれば足りるのかな」  ジュース五本。多すぎやしないか? 「ジュース……」  この等価交換が本当に対等か検討してみた。  うん。やっぱり割に合わないね。 「二本減らして三本に値引きで」  雛は指を額に当て、 「ふ~む。まぁ、よかろう」 「手痛いけど」 「約束破らないように指きりね」  少々焦った。既に前方二人目まで順番が回ってきているのにそんな悠長な事をしている時間があるのだろうか。しかしここで交わさなかったらこの状況は打破できないので、 「手早く」 「指きりげんま~……」  指切りを終えた瞬間を見計らったようなタイミングでチャイムが鳴った。 「おや~ノートを見せる前に終わってしまったね~」  手を口元に寄せ、企んでるような口調の雛。何かが引っ掛かる。  よしここで一旦状況を整理してみよう。寝てた事がバレないように雛からノートを見せて貰う代わりに私がジュースを三本奢る。ちょうど約束を交わした瞬間に授業が終わったので雛は私にノートを見せる意味はない。  あれ、ちょっと待てよ。という事は…… 「あ、バレちゃったか」 「ちょ、これって完全に私が損してるじゃん!!」 「言っとくけど条約破棄したら針千本飲んで貰うからね」  にっこりと言ってのけた。 「この条約は無効だ。これは友好条約という名の請求だ」 「む~、そこまで言うならほれ、授業のノートだぞい」  雛はノートを見開いて私に見せてくる。 「いや、あの、雛さん? 次の授業、社会科見学だから時間ないんですけど。書き写す時間が皆無に等しいんですけど。そんな私に一体何をしろと」 「ん~。でもちゃんとノートを見せてあげたんだから条約は有効だよ。だからキッチリジュース三本ね」  可愛げにウィンクを投げてきた。  この娘、澄ました顔して何気に賢い。というかズル賢い。だってこの娘、廊下で男子が殴りあってる場面を話し合いで解決させた実力の持ち主なんだよ。いや、あれは話し合いって言わないかな。だって九割方雛が一方的に喋ってたし。
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