一章

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「裏を上手にかきましたね」 「人生ズル賢くないと生きていけないもの」  そんな事ばっかりやってると信頼失うよと注意したところ、 「うん。人生何事も程々が大事」  そう言って私の手元にノートを置いた。 「ほら。今日一日貸してあげるからちゃんと写すのよ」 「ありがとう~雛。大好きだよ~」 「こらこら離れなさいな」  雛のノートを鞄に仕舞い込み、鞄の中身が薄い事に気がついた。 「あれ。次の授業に使うファイルがないや」 「釘を刺しておくけど貸せないわよ」 「う、分かってるよ」  う~ん。家まで取りに行こうかな。幸い家はそんなに遠くないし次の授業は現地集合だからある程度遅れてもバレにくいし平気かな。 「ごめん雛。先に二色(にしき)大学に行ってて」 「あいよ~」  ものういとした雰囲気で頷いた。  私は机上に散らばっている勉強道具一式を鞄に突っ込み、急ぎ足で教室を後にした。  二色大学。『世界の全てを賄う機械』の三割を造った大学。      ◇  私が科学者養成学校『渚未来』に入学した理由は科学者になりたいからじゃない。渚未来は『世界の全てを賄う機械』を開発したあの女が通っていた学校で、周りは彼女みたいになりたくて憧れて入ってきた。雛もその中の一人だ。そんな人達が多いけど、私は誰とも違う。  私が入学した理由は“知りたい”から。何故、彼女が私を捨ててまで科学者の道に走ったか。その中で何を感じ、何を考え、何を思い、何を目指したかを知りたい。  だから私は渚未来に入学した。 「あ~ダメダメ」  住宅街のど真ん中で立ち止まる。 「何でいつもあいつの事を考えちゃうのかな」  授業中も今も。気を抜けばいつもあいつの事を考えている。もしかしたら本当に潜在的願望が反映されてるのかもしれない。  顔をブンブンと振り気分を紛らわせる。 「ん?」
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