一章

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 玄関の前に得体の知れない異物が置いてあった。  第一印象は気味が悪い。  形状は人間が丸ごと入れそうな長方形。表面は黒く塗りつぶしてある。棺桶に似た形状が余計、薄気味悪さを際立たせる。まるでそこだけ別世界に成っているような、正常に異常が混ざっているかのような感覚に囚われた。  警戒心を露にし慎重に近づく。棺桶の上部に白い何かが貼ってあった。 『割れ物注意』と。  そこで異質感は一気に吹き飛んだ。 「郵便物か!!」  ホッと胸を撫で下ろす。日常に帰れた気がした。  取り敢えず玄関に放置しておいても邪魔なので家に入れる事に。 「重っ、何これ人でも入ってんじゃないの?」  ズッシリと腰にくる重さだ。外見に見合った重量の箱を引きずりながらリビングへと上がった。  家の中は不気味に静まり返っている。そりゃそうだ。なんせ私に家族はいない。昔はいたよ。昔はちゃんとお母さんがいた。お父さんはいなかったけどね。でもそれでもよかったんだ。それで十分幸せだった。  けど、お母さんもお父さんみたいに私の前からいなくなった。母さんは世間では名前を知らない方がおかしいと言われるくらいに有名な科学者。しかも研究で相当優秀な成績を出しているらしく、私が持っている母さんの通帳には毎月数千万もの大金が振り込まれてくる。時々減っているところを見ると、研究資金か生活金として使っているみたいだ。生きているのは確か。でも何故か、好成績を出しているのにも関わらず公には顔を出さない。  贈り物をリビングの適当な場所に運んだ。 「これどうしよっか」  玄関に置いて邪魔な物はリビングに置いても邪魔だった。部屋の隅っこに移動し直し、気分を変えようとテレビのリモコンを取る。 「…………」  気が散る。というレベルではない空気が漂う。  ホラー映画を観た後に残る恐怖感。  シャワーを浴びている最中に背後から感じる視線。  夜道を歩いていて後ろを誰かにつけられている錯覚。  そういった得体の知れない不確かな怖さが家中に蔓延している。原因は一目瞭然、差出人不明の贈り物だ。  視線をテレビから贈り物へと移す。依然として圧倒的な存在感を放っていた。  ふと、
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