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ある日の放課後。
とっくに部活が始まっている時間。
日も傾き出し、オレンジに染められてゆく教室の中に、日直のわたしと幸村はいた。
たまに話す程度の間だが、前から私には幸村に聞きたいことがあった。
「幸村くんってさぁ……」
「ん??」
学級日誌を書いている私に背を向け、黒板を消す幸村が顔だけこちらに向けた。
「幸村くんって、いつも余裕そうだよねー」
「ふふ、そうかな??」
そう微笑んで幸村は向き直りまた黒板を消し出した。
「でもさぁ……無理してない??」
ピタッと幸村の動きが止まりゆっくりまた顔だけこちらに向けた。
「どういうこと??」
先ほどと変わらず微笑んでいるが明らかに引きつっていた。
「なんとなくさー。たまには真田くんとか柳くんとかに頼って見たら??」
「…俺がそんなことするように見える??」
「いやー。まったく甘えないって感じだよねー。」
私は苦笑して答えると幸村は体ごと振り返った。
「……どうしたの、いきなり」
「私も最初はさぁー、幸村くんって誰にも甘えないですごいと思ってたんだけど、たまに話すうちに気付いたんだよねー。『甘えない』んぢゃなくて『甘え方を知らない』んぢゃないのかなって」
「……。」
「ほんとは誰かに甘えたい、助けて欲しい、って思ってるんぢゃないかなーって。
あっ違ったらごめんねー??ただ幸村くん見てるとそんな気がして。」
「……。」
「ぢゃーあたし、日誌届けてくるね。幸村くんバイバーーー」
ギュッ
ただ黙っている幸村に一方的に挨拶を告げ、職員室に向かおうとドアに手をかけた時、幸村が後ろから抱きしめて来た。
「えっちょっ幸村くん!?」
「ほんとはさぁ……」
焦る私と打って変わって幸村は静かに話し出した。
「本当は誰かに甘えたい。でも付き合いの長い弦一郎もあの蓮二も、いつも精市は余裕があるよなって言う。本当は自分のことで精一杯で余裕なんてない。でもそれがバレるのがイヤでずっと余裕なフリしてきたんだ。」
「……。」
「……だからさぁ、ーーー」
幸村は黙る私をさらにギュッと抱きしめ
「『甘え方』教えてよ。甘えさせてよ。」
「……私なんかでよかったら」
そういうと私は幸村の方を向いて抱きしめ返した。
ーーー教室はもう暗くなり出していたーーー
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