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ゴロゴロと、三つの赤い林檎が四方八方に転がっていく様は、他人事だとまるでドラマみたいだと眺めてしまう。
林檎だけじゃない、今日買い込んだ食材たち全てを地面に転がしながら慌てふためく当事者に、私は駆け寄った。
「大丈夫ですかっ? ――あっ! 林檎が川に落ちちゃうっ」
現場は橋に差しかかる場所だった。
走って間に合わない分は膝をついて手を伸ばしたところ、無事に林檎を助けることが出来た。
「あっ、ありがとうごいざいますっ」
当事者はひとまず落ちた全ての食材をひとところに集めたあと、私の手の中にあった林檎を受け取りに近づいて来てくれた。
「いえ。傷は少しついてしまったけど、汚い川に落ちなかったからセーフですか?」
今日の林檎はとてもいい品なんだと、店長が言っていたし。
「はい。傷くらいは。――さっきレジで会計してくれた店員さんですよね?」
「っ!?」
「あれ? 僕の勘違いだったらすみません」
「――いいえ」
まさか、分かってくれているとは思わなかったから、少し言葉に詰まった。
食材ゴロゴロの当事者は、私の朝の癒し、さっきスーパーに買い物に来てくれたあの人だった。
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