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見栄っ張りの店長が自信を持つだけのことはある。私が渡したエコバッグは、カゴいっぱいお買い上げいただいた商品たちが全てすんなり入った。布も頑丈で、店名さえプリントされていなかったら最高だ。
「助かりました。ひとりだったら、きっともうしばらくは考えて佇んでたなあ」
「近くにコンビニとかがあれば良かったんですけどね」
最初に交わした『ありがとうございます』より、会話の緊張感が和らいだことがなんだか嬉しい。
もうしゃがみ込む必要もなくなったから、私たちは同時に立ち上がり、膝についた埃を払う。
そうして、もうここにいる理由もないものだから、私は軽く会釈をして、
「じゃあ、気をつけて帰って下さいね」
どう言ったらいいかサヨナラの挨拶を迷ったまま、へらへらと笑った。
「ありがとう。でも、気をつけてなんて、それは僕が言う台詞だ。夜道を危険視しなきゃいけないのは、笹本さんみたいな可愛い女の子の方なのに」
へらへらと笑ったまま、私の表情はその放たれた言葉で固まった。
「――――っ!? ……私、名前……」
「? そりゃあ、知ってますよ」
朝見るのと同じさっぱりした顔で、皆まで問わなくても答えは返された。
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