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「気付きもしないで毎朝マヌケな顔をさらしてしまっていたのか、僕は……すみません」
何も申し訳なくなることなんてないのに、横を歩くその人は恐縮する。
「……いいえ。こちらこそ色々とぶしつけな視線を……」
別れを告げたあと、帰路はどうやら同じだったようで、ふたりで並んで夜道を歩く。夏の空気はとっくに消え去っているはずなのに、吹く風むなしく顔が熱い。
「いえいえ。風景の中に知った顔があると、無意識でも追ってしまうのが心理ですよ。――それに、僕は可笑しな客でしょう? ほとんどが閉店ギリギリで、駆け込んでくるものだから」
「っ、そんなっ! 記憶には残りますけど、優しい人なんだろうなって印象ですよ」
「優しい?」
そうだよね。今日初めて話した私に、突然そんなことを言われても困惑するだろう。
「いつも家族のために、頑張ってお買い物してるんだなあって。――良きマイホームパパという称号がピッタリな感じです」
でも、その称号は、困惑の度合いをより深めてしまったみたいで。
「……」
その人は口を大きく開けて、次に言う言葉を失くしてた。
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