69人が本棚に入れています
本棚に追加
「――この、破れてしまった買い物用のバッグ。父が母のために作った手作りなんだ」
「お父上は、とても器用な方なんですね」
「ははっ。お父上って、そんなガラでもないんだけどねっ。気を使ってくれてるのなら、そういうのはよしましょう」
「っ……はい」
それからの本郷さんは、多分私のためなんだろう、場の空気が重くならないようにと努めてくれたように感じた。
「父は裁縫が得意で、それ以外の家事は全部ダメ。反対に、母はそれ以外が万能でね。補い合える最高のカップルだって、よく息子二人の前で恥ずかしげもなくお互いを褒めてた」
「憧れます。そういうご夫婦」
「うん。けど、思春期とかに目の当たりは勘弁だったね」
「うーん……それはそうかも」
賛同した私に、そうだろうそうだろう、と本郷さんは何故か嬉しそうだ。
首を傾げると、本郷さんも反対側に首を傾ける。
可笑しくなってしまって、今度はふたりで同じように笑ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!