1・見上げたいのは――

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「――この、破れてしまった買い物用のバッグ。父が母のために作った手作りなんだ」 「お父上は、とても器用な方なんですね」 「ははっ。お父上って、そんなガラでもないんだけどねっ。気を使ってくれてるのなら、そういうのはよしましょう」 「っ……はい」 それからの本郷さんは、多分私のためなんだろう、場の空気が重くならないようにと努めてくれたように感じた。 「父は裁縫が得意で、それ以外の家事は全部ダメ。反対に、母はそれ以外が万能でね。補い合える最高のカップルだって、よく息子二人の前で恥ずかしげもなくお互いを褒めてた」 「憧れます。そういうご夫婦」 「うん。けど、思春期とかに目の当たりは勘弁だったね」 「うーん……それはそうかも」 賛同した私に、そうだろうそうだろう、と本郷さんは何故か嬉しそうだ。 首を傾げると、本郷さんも反対側に首を傾ける。 可笑しくなってしまって、今度はふたりで同じように笑ってしまった。
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