1・見上げたいのは――

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静かな秋の夜。寂しげな住宅街に差し掛かった帰り道。林檎を拾ったのはそんなに過去のことじゃないはずなのに、その時よりも冷たい風が吹いた。 「母は、この買い物用のバッグでいつも家族のために買い物を、ね」 「エコバッグ、って言うんですよ」 「そうか。そっちの方が言い易いね。ありがとう」 「いいえ」 さっきから、本郷さんは道端の小石を転がしながら歩いている。動作にあまり淀みがなくて、サッカー経験者なのかなと想像させた。 「母は、買い物をいつもしてた。――けど、半年前、父が急に他界してしまってね……。それがあって、母はあまり外に出なくなってしまって」 「……」 「以来、僕と弟が日々の買い物を担ってる」 「……、そう、だったのですね」 もう、本郷さん自身は悲しみは落ち着いたのだと言う。 私は静かに、そうなんですね、と頷く。 ―― 「ごめんなさいとか、言われなくて良かった」 なんてことを、話題を持ち出した本郷さんが満足そうに呟いた。
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