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静かな秋の夜。寂しげな住宅街に差し掛かった帰り道。林檎を拾ったのはそんなに過去のことじゃないはずなのに、その時よりも冷たい風が吹いた。
「母は、この買い物用のバッグでいつも家族のために買い物を、ね」
「エコバッグ、って言うんですよ」
「そうか。そっちの方が言い易いね。ありがとう」
「いいえ」
さっきから、本郷さんは道端の小石を転がしながら歩いている。動作にあまり淀みがなくて、サッカー経験者なのかなと想像させた。
「母は、買い物をいつもしてた。――けど、半年前、父が急に他界してしまってね……。それがあって、母はあまり外に出なくなってしまって」
「……」
「以来、僕と弟が日々の買い物を担ってる」
「……、そう、だったのですね」
もう、本郷さん自身は悲しみは落ち着いたのだと言う。
私は静かに、そうなんですね、と頷く。
――
「ごめんなさいとか、言われなくて良かった」
なんてことを、話題を持ち出した本郷さんが満足そうに呟いた。
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