1・見上げたいのは――

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  週に五日間、大学へ通う朝、なんとなくだけど目で追ってしまう人がいる。 通勤通学でごった返す駅の、私が立つ反対側のホームにいる人。 いつもスーツだから多分サラリーマン。 同じ時間の同じ場所。それは、私が認識してからずっと変わらない。 いつもさっぱりと目覚めた表情で、凛と背筋を伸ばしている。涼しい秋風に変わってからは、より一層爽やかに感じる。 ペタンコじゃない通勤鞄には、二段重ねのお弁当箱と、折り畳める保冷機能付きエコバッグが入っている。 ……なんてことを、私はわりと早い段階で知ってしまった……。 「……うーん……やっぱりどう見ても考えても、所帯をお持ちの人だよねえ……」 「栞っち、今なんか言った?」 「っ!? いやっ、独り言だよ」 隣に立つ、昨晩泊まりに来た友達の存在を思い出して我にかえった。 ……ああ、でも あの人はきっと、優しい旦那さま、なんだろうな。
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