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「本郷さん」
「――、はい」
「エコバッグ、直せるかもしれませんよ。本郷さんのお母さまが、大切なそれをしばらく私に預ける心の余裕を、今持っていらっしゃるなら」
突然の申し出に、再度本郷さんは困惑する。
「っ、もしかして笹本さんが?」
そうだったら、それはそれはカッコイイ申し出だ。
でも、あいにく。
「いいえ」
私が首を横に振ると、本郷さんはまた申し訳ないといった表情。
「いや。笹本さん本人でも迷惑だろうに、伝って他の方にまでなんて……。母もね、最初は悲しくて外出出来なかっただろうけど、もう今じゃあ、僕たちがそうしてくれるから楽だなという気持ちなだけであって」
「でも、大切なものが直ったら、きっと嬉しいのかな、って」
私ならそうなんだけど――でも、それもきっと人それぞれなんだ。
言ってしまったことに少し反省する。
「……もし、お母さまがそう望まれるんであれば、いつでも言って下さい。私の母、裁縫得意なんですよ」
「――はい」
「それか、もっと身近に直せる人がいるなら、そうしてもらって下さい」
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