1・見上げたいのは――

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――…… 大学も二年目に突入した春、他の子たちと比べてかなり亀の歩みだけど、バイトを始めた。 だって仕方がない、と少しだけ言い訳をする。 初めての電車通学は私にとって過酷だった。おまけに、自宅からの距離は結構あって、より辛い。 一人暮らしを提案してはみたけど、確かに、そうなるにはもう少し遠い大学だよな、と自分でも感じてしまっていたからあっさり敗退。 元来何事にもゆっくりな性格をプラスし、そうして今に至る。 バイトは、大学の駅付近で選んでしまうと帰りが大変だから、自宅最寄り駅近くにあるスーパーのレジの仕事を選んだ。すんなり採用してもらえたのは本当に良かったと思う。 私が目で追ってしまう所帯持ちだろうと推測してしまったその人とも、バイト先で顔を合わせる。 といっても、合わせるなんて、感じているのは一方的なこと。 週に一度、私のシフトと重なるのはそんなところ。時間帯が遅いだけに、稼動しているレジも多くないから、高い確率でその人は私が対するお客様になる。 メモとリスト上の商品を入れたカゴを片手にレジに来て、私が合計金額を提示するまでの間にエコバッグを鞄から取り出す姿がいつも焦り気味で可愛いんだ。 ……――
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