第一章『白い何か』

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晴天の青空。 地平線を覆い尽くす広大な海。 宙を舞うカモメがニャアニャアと鳴き、半開きの窓からは心地よい潮風が入って来る。 都会に暮らす者ならこの匂いを嗅ぐのは必然的にテンションが上がるものである。 「良かったぁ、晴天ねぇ」 「日頃の行ないがいいからさ。絶好の釣り日和だよ」 日曜日の昼間、海辺の道路を一台のワゴン車が走行していた。 和やかな光景だった。 運転手には父。 助手席に母。 その後ろにははしゃぎ回る娘の姿と、釣り道具。 「ねぇねぇ海って何で青いの?」 上機嫌で娘はシートの上にアゴを乗せ、笑顔でそう問う。 「それはねぇ愛奈、空が青いから、海にそれが全部映っているのよ」 「じゃあ何で空は青いの!?」 「…んぅ」 母親はアゴに手を当てて考え込む。 「馬鹿…お前空が青い理由も知らないのか?」 「そういう貴方は知ってるの?」 母親はムッとした表情でそう問う。 「要約すると太陽からの光が微粒子にぶつかり散乱するとき、青色の波長の短い光が強く散乱されるから空の色は青く見えるって事だ」 「…子供にどう説明すんのよ」 「ははは、何でも良いだろ。カエルが空を泳いでるとかよ」
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