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-子、供。-
「もうウンザリだ!!」
男は声を荒らげ、リビングのテーブルをしこたま殴りつけた。これで何度目だろう、彼がこの様にヒステリーを起こすのは?
名前は、確か……橋爪といったな。
「だから今こうして、誰が行くかを決めようとしているんじゃないですか。少しは落ち着いて下さい」
俺がそう言うと、橋爪は憮然とした態度で「ふん」と鼻を鳴らす。いい歳のオッサンがする事とは到底思えなかったが、彼の気持ちが分からない訳でもなかった。
俺達五人がこの家に立て籠ってから、もう一週間だ。そりゃあヒステリーも起こしたくなる。
まともでいる方が難しい。それは全員同じで、最初のうちはぶつけ所の無い苛立ちを、皆が覚えていた。だが、直ぐに気付く。
どれだけ不平や不満を並べようと、誰もはっきりとした事など記憶してはいないし、誰かが答えを出してくれる訳でもない。分かっているのは、俺達が自覚するよりも前から、世界は姿を変え始めていたという事だけ……。
それに今は世界の行く末よりも、もっと深刻な問題があった。
食糧の確保──。
家主である蒼井という老人は、若い頃の怪我が原因で足を悪くしていた為、頻繁に買い物に出なくても済むよう、ある程度の食糧や水は備蓄してあった。
それを切り詰めながら、何とか飢えを凌いでいた訳だが、いつかは限界の時が来る。
今はまだ電気や水道などのライフラインが生きているが、それもいつ使えなくなるか分からないとなれば、直ぐにでも何とかしなければ……。
俺はテーブルに置かれた割り箸に、そっと視線を落とした。内二本の先端は、赤く塗られている。
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