二人

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  *   *   *    出会いの日。  他殺志願者は有給休暇をとって、待ち合わせ場所に向かった。途中の花屋で一番安い赤バラを購入し、とりあえず、余分な茎の部分を折りとって、ゆったりしたサイズのトートバッグに放り込む。そして時間の五分前には着くよう、時計を見ながら歩いた。彼女は誕生日や何かの記念日は忘れやすいものの、時間には几帳面な方だった。  そして壁画の前に立ち、バッグから少ししなびた赤バラを取り出し、所在なさげに指先でもてあそびながら辺りを見渡した。白バラの人物はまだ来ていないらしい。目の前を足早に通りすぎてゆく人の流れは、誰もが何かの目的に向かっている。その中でぼんやりと待つだけの自分がもどかしい。それに、うしろめたい目的があるせいか、数メートル先の交番が気になってしょうがない。  早く来ればいいのに。他殺志願者は口の中でそう呟いた。待ち合わせの時間まであと二分。それにしてもサポートしてもらう立場の方が先に来ているべきではないのか、と少し不快に思う。日射しが強くて、汗が滲んでくる。紫外線はどれくらいの強さなのだろう。  華奢なデザインの腕時計で、時間を見つめる。
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