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目許の表情が弱い。幸せの薄そうな人だと感じられる。自殺志願をするほどなのだから、薄幸なのは当然かもしれないが。
「あなた、ですか? 他殺志願なさってらっしゃる」
「とりあえずお店に入ってお茶でも飲みながら話しましょうか」
相手の外見をチェックしているうちに、自殺志願者が口を開いた。しかし何で公衆の面前の、しかも交番付近で他殺だなんて物騒な単語を出すのか。他殺志願者はとっさに話題を切り出して、彼女の言葉を遮った。これから、この人物の自殺をサポートするのかと思うと、出会ったばかりなのに気が重くなってきた。
「……あ、はい」
自殺志願者はためらいがちに頷き、さっさと歩きだした他殺志願者の傍らについて歩いた。赤バラはハチ公像の周りにある植え込みに投げ込まれた。白バラは用を果たして使い道もないまま、所有者の手に残っていた。
「――で、私はあなたのサポートをするわけだけど」
適当な喫茶店の奥の方の席につき、注文を済ませ、それが届くのを待ってから他殺志願者が切り出した。
「とりあえず、お互いの呼び名を決めましょう。簡単なニックネーム。本名を出すのはお互いのためにならないと思うの」
特に自分のためにならない、とは言わずにおき、何がいいかしらねえと唸ってみせる。自殺志願者は考えているのかいないのか、ぼんやりと向き合っている。
「私のことはカオル、とでも呼んでちょうだい。あなたは……」
「え、私は、……ええと、あの」
そこで、ハンカチを両手でいじりながら考えこむ。そのさまが見ていて何となく苛立たしく、相手には悪いが少し意地悪な気分になってくる。
「じゃあ、あと五秒で決まらなかったらハナコ、で決定ね」
声音だけは優しくしながら、ちっとも優しくない気持ちで話を進める。
「え、でも……」
「四、三……」
「あ、あの」
彼女がうろたえた声を洩らす。おそらく頭の中では焦りだけが沸きたって、自分の呼び名など浮かんではいないだろうと思われた。
「……二、一」
「あ」
「――ハナコ。これからよろしくね。ほんの数日間のつきあいだと思うけど」
他殺志願者は慈悲なく言い切って、自殺志願者の方に握手の手を差し出した。
「あ、……はい」
軽く握った自殺志願者の手はひんやりとしている。指先が細く華奢だった。
これから先は、この呼び名に合わせ、自殺志願者をハナコ、他殺志願者をカオルと表記する。
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