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『自殺志願者、他殺志願者
両者 共に募集中
詳細は 公衆電話より
下記電話番号まで』
黒い紙に太いゴシック体の白文字で書かれた、B5版のチラシ。それを手早く電柱に貼り、一歩下がって、募集人はじっと眺めた。そしてすぐに身を翻し、その場を離れる。彼は人目についてはいけないのだ。
彼が今回選んだ場所は、東京都のJR国分寺駅前だった。何度となく繰り返してきたこの募集行為では、駅から出て最初に見えた電柱に、このチラシを貼るのが通例だった。駅は大きすぎても小さすぎてもいけない。それなりに乗降する人がいること、駅構内で道に迷いそうなほどには広くない駅であることが重要なポイントだった。あまり小さい駅では見る人が少ないし、あまり大きい駅では、駅から出ることに意識が集中されてしまって、そこから出たところにひっそり貼られたチラシなどには誰も目をとめないのだ。
募集人は、心の隙間、あるいは遣り場のない気持ちに、そっと囁きかけるような方法を好んだ。
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