奮戦

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 カオルは、なぜ自分が赤の他人のためにそこまでしてやらなければならないのかと溜息をつく。殺人罪に問われずして他殺するということは、これだけの代償を求められるものなのか。 「じゃあ、とりあえず飲み終わったら出ましょう。都心から少し離れたシティホテルに移動しようと思うんだけど、いいわね?」 「あ、はい。でも私……」 「お金のことなら、いいわよ。部屋代くらいなら私が出してあげるから」 「でも、そんな……」 「嫌なの?」 「いえ、申し訳なくて」  恐縮しきった様子でハナコが俯く。カオルはことさら気にとめない風に装って「いいから、早く飲んで行きましょう」と促した。  最初に二人が募集のチラシを見たのは、国分寺の駅前だった。つまりそこは生活圏内だから、知っている人間に姿を見られる危険性がある。そこを避けるとするなら、適度に人が出入りしている場所でいて、近くに自殺用品を買い揃えることができる店のある場所がいいんじゃないだろうかとカオルは考える。そしてその店は雑然としていて客の出入りが激しい方がいい。たとえば、大型の百円ショップのように。
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