奮戦

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 二人はとりあえず吉祥寺までの切符を買って渋谷駅の改札を通り、山手線で新宿まで行って、中央線の下りのホームへ向かった。あいにく電車は行ってしまったばかりだった。次までは十分近くある。カオルはバッグからシガレットケースを出しながらハナコへ声をかけた。 「ちょっと喫煙コーナーに行ってもいいかしら」 「あ、はい」  ハナコが頷きながら自分のバッグに手を入れる。どうやら彼女もタバコを吸うらしかった。カオルは、これでタバコを吸う時に気を遣わなくて済む、と少しほっとした。  喫煙コーナーでは、数人のサラリーマンが忙しなくタバコを吸っていた。時間は午後一時四十五分。普段ならば働いている時間だ。カオルは不思議な気持ちになりながらタバコをくわえた。隣では何を考えているのか分からない表情で、ハナコがタバコに火をつけている。  電車が来ると、二人は空席を見つけて腰をおろした。電車は朝のラッシュとは打って変わって閑散としている。何だかのどかな雰囲気があった。  窓の方を見やり、流れる景色を眺める。似たようなビルや家を何度も通りすぎる。刺激のない景色は眠りを誘うようで、カオルは重くなってくる瞼を必死に開いていた。
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