志願者募集

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 こころもちくぐもった音で聞こえてくる相手の声は、まだ若そうな女性のものだった。 「ええと、電柱に貼ってあった広告を見たんですけど。あの、これってジョークですか」  はきはきした話し方だった。頭の回転も悪くなさそうだ。募集人は少し嬉しくなる。 「いえ、こちらはいたって本気ですよ。あなたはどうですか」 「ええ、そちらが本気でしたら、こちらも本気です」 「それはよかった。あなたは、どちらを志願していますか」  そう訊ねると、一拍の間を置いてから「他殺です」ときっぱり答えてきた。募集人にとっては、ますます好もしい。その決断力と意欲のありそうな声が大事なんだと声には出さずに頷く。 「でも警察に捕まるのは、まっぴらごめんです」 「そうでしょう、私もごめんですしね。大丈夫、捕まらない方法でいけますよ。自殺志願者さんが一人申し出てきてくれればの話ですが」 「それはつまり、自殺志願者を殺すということですか」 「殺したら捕まってしまいますよ。他殺志願者さんが行なうのは、あくまでもサポートです」 「自殺のサポート」 「ええ。相手を確実に死なせてあげるわけです。自殺手段は何でも構いません。どうでしょう、やってみますか」
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