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数秒の沈黙。相手は少し迷っているようだった。募集人はここで返答を急かさずに、じっと待つ。焦ってはいけない。誰かを殺したいと言い出すような人間の、その鬱憤を信じて待つのだ。
「……自殺志願者が出てきた場合、そちらから連絡を頂けるんでしょうか」
こいつは本気だ。ひゅうと口笛を吹きたい気持ちになりながら、募集人は声を落ち着ける。
「あいにく、この電話番号は待ち受け専門なんです。よろしければ、十二時間後にもう一度お電話頂けますか」
「それは、構いませんけど。……本当に、ジョークじゃないんですね?」
「ええ。それはお約束します。――ところで失礼ですが、あなたの髪型を教えて頂けますか」
「少し、明るめの色をしたロングヘアですけど」
「分かりました、ありがとうございます。自殺志願者の方が出た際に、待ち合わせの指示をさせて頂くのに必要なものでしたので」
「はあ。じゃあ、また夜にお電話させて頂けばよろしいんでしょうか」
「ええ、よろしくお願いします」
通話を切って、募集人は椅子の背に凭れかかった。他殺志願の彼女は、おそらく半信半疑だろう。
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