志願者募集

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 けれどこちらの立候補はなかなか出なかった。いつもなら自殺志願者の方が先にくるというのに、次の喫茶店で三十分粘っても、仕方なく一度職場に戻って働くふりをしてみても、よどんだ雰囲気が周りを疲れているようにみせる帰りの電車の中でも、募集人の携帯電話は沈黙を続けた。  制限時間は十二時間だ。残すところ、あと三時間弱。  募集人は微かな焦りを感じた。せっかく他殺志願者などという危険な人間を得ておきながら、世の中に溢れていそうな自殺志願者が見つからないなんて!  帰路はもう終わろうとしていた。次の角を曲がれば、募集人が住んでいる高層アパートに辿り着く。  胸ポケットの携帯電話がちゃららら、と着信を告げたのは、ちょうどその角を曲がる瞬間だった。
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