志願者募集

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「はい」  募集人はすぐさま携帯電話を取り出して通話を繋げた。相手は言葉に詰まっているらしく、最初の一言がどもってしまって出てこない。この気弱そうな人間こそ自殺志願者であってくれと募集人は思う。 「あ、あの。……あの、駅前の電柱に貼ってあった紙を見て、電話させて頂いたのですけど」 「ええ、ありがとうございます。――あなたはどちらを志願なさいますか?」  流暢に、手慣れたような声で相手を促す。覚悟を決めかねるような呼吸音が二度ほど聞こえてきて、それから戸惑いを隠せない口調で相手が答えた。 「ええと、自殺、志願です」 「はい、どうも。じゃあ、明日の午後一時に渋谷駅のハチ公の壁画前までおいで頂けますでしょうか」 「ハチ公、壁画前……はい」 「ありがとうございます。その時、目印に白いバラの花を一輪持っていて頂けますでしょうか」 「あ、……はい。あの」 「何でしょう?」 「はい、ええと……待ち合わせて、何があるんでしょうか」  語尾が不明瞭な喋り方に、募集人は僅かに苛立ちを覚えた。こういうタイプの人間は苦手なんだよな、と思う。
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