プロローグ

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 両親が交通事故で死んだ。  高2の夏――夏休みが終わりに差しかかった、とても暑い日だった。  父が母と2人で車に乗っていて、対向車線から飛び出してきた4トントラックと正面衝突した。友達の家へ遊びに行っていた俺――白石悠叶(しらいしゆうと)は、そんな事故の原因を後から聞かされた。2人共、ほぼ即死の状態だったらしい。  俺はその瞬間――心を失ったんだ。  通夜でも火葬でも、俺は一滴も涙を流す事ができずにひどく自己嫌悪した。2人の亡骸を前にしても、参列した人達の涙する声を聞いても、俺には何の感慨も湧かなかったんだ。他でもない、自分の親が死んだっていうのに。  こんな薄情で冷血な自分が、なぜ生かされているんだ? 死ぬべきは、俺の方だったんじゃないだろうか。  そんなネクラな考えが頭の中で渦巻いていた。  火葬を終えた俺は、無気力に自室のベッドへ身を横たえた。すごく疲れたし、全てがどうでもよかった。明日が来ても来なくても、世界に放射能が撒かれようとも、俺の知った事じゃない。もう俺は何もしたくなかった。  日が暮れても夜が明けても、俺は寝食を忘れたように動かなかった。不思議と生理現象すら起きなかった。  ふと思う。このまま何もせずにいれば、熱中症か栄養失調で近いうちに両親の元に行けるんじゃないかと。特に未練もないから、それでも別によかった。  それなのに――気まぐれだったとしか言いようがない。  火葬から3日ほど過ぎたぐらいだっただろうか。1時間近く家のインターホンを鳴らし続ける奴がいた。微かに何かを叫ぶ声も同時に聞こえてくる。  身体を引きずるように玄関へ出ると意外な人物がいた。  それは俺の通う高校の新任教師――長森聖美(ながもりきよみ)さんだった。
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