第1章

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 うだるような暑い日だった。真上に位置した太陽が容赦なく俺の頭を焼いてくる、そんな雲のない快晴日。すでに9月に入ってはいたが、当分は残暑に悩まされそうだ。  部屋にはエアコンが完備されているのだろうか。そんな事を考えながら、学校の前で聖美先生を待った。昨日の電話で、ここで待つように言われたからだ。  しかし、何とも居心地が悪い。暑さのせいもあるが、2学期が始まっているにも関わらず、俺は今日学校を休んでしまったのだ。忌引の休みということにしておいたが、単に行きたくなかった。そんな俺が学校の前でカカシのように立っているのは、きっと周りから見たら異様な光景でしかないと思う。  チラッと携帯の時刻を確認する。現在14時10分。もうじき授業が終わって聖美先生が出てくるはずだ。俺は腕で顔の汗を拭うと、軽く息を吐いた。  それから30分後、聖美先生がゆっくりとやってきた。俺の姿を見留めると、顔の横で手を振りながら少し早足になる。今日の聖美先生は、白い薄手のブラウスに薄桃色のロングスカート姿だ。いかにも国語教師と思えるような、おしとやかな格好だった。 「お待たせ。遅れてごめんね」  そう言うと聖美先生は、先導してアパートまで案内してくれた。学校から歩いて5分ほどの所にそれはあった。 「ここがわたしのアパート『ほのぼの荘』よ」                                  まだ建てられて年月が経っていなそうな、綺麗な外観のアパートだった。ドアの数から見て、3部屋の2階分――全部で6部屋あるようだ。  空き部屋というのは、2階の最奥にある部屋だった。ドアには203号室のプレートが貼られている。 「どうぞ」  中に入ると、むわっとした熱気に身体が包まれた。真新しい畳の匂いが鼻腔をくすぐる。  窓から差し込む光の加減もあってか、外観に違わず綺麗な部屋という印象を受けた。  玄関の右横に台所、その反対側にはトイレとお風呂場があった。靴を脱いで部屋へと入ってみる。  部屋は2つ、台所と隣接している6畳の和室と、その奥にある同じく6畳の洋室だ。洋室にはねずみ色のカーペットが敷かれ、窓側の壁に白いエアコンがついていた。 「どう、気に入ってくれた?」 「ええ、まあ」  家具がないがらんどうの室内では、いささか答えにくい。だが、人生初の一人暮らしをするにはおあつらえ向きだとは思った。
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