第1章

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      ☆☆  次の日から俺は、学校が終わってからの引っ越し作業に追われた。  今まで両親と俺の3人で暮らしていた家から必要な物だけを選り分けて、残りは全部処分しなければならないのだ。1人ではいつ終わるかわからない、本当に気の遠くなる作業だった。  しかしありがたいことに、聖美先生が助っ人2人を連れて手伝いに来てくれた。助っ人はどちらも、アパートの住人だそうだ。  一人は寺島さんという40代くらいの男性で、力仕事や軽トラックでの運搬をしてくれた。  もうひとりは野崎かなえさんという、先生より少し年上に見える女性だ。借家の引き払いの手続きや、引っ越しに際しての届け出関連を一手にやってくれた。知らない事だらけの俺にはとても頼もしかった。 「白石君、お茶碗はこっちの箱でいい? いいよね」  聖美先生はというと、マイペースに荷物の梱包を手伝ってくれた。  ハッキリ言ってしまうと、2人ほど戦力にはならなかった。それでも俺には聖美先生の存在が嬉しかった。  終わってみれば、わずか1週間そこそこで引っ越しを終える事ができた。慣れない重労働で身体の節々が悲鳴をあげているが、達成感もあってかとても誇らしい痛みだ。  引っ越しを終えたアパートの室内は、新しさと懐かしさが共存した、我ながら最高の部屋に思えた。全ては聖美先生のおかげだ。聖美先生のあの言葉が、俺を導いてくれたんだ。  俺は無性に聖美先生達に何かお返しをしたくなった。親戚連中と違い、無償であそこまで親切に親身になってくれた3人に俺ができる事は何だろう。  それから俺は一晩中考えに考え抜いて、1つの妙案を思いついた。
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