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打つ手がない、とはまさに自分たちの今の状況のことだろう。
一馬たちは地和に現実を突き付けられ、そして協力者も得られずにただいつもと同じように学校に通う他、することがなくなっていた。
虚しい焦燥感のなか、彼らはエースのいない日常をただ送っていた。
「……はぁー」
重い空気が二年二組自体に漂っている。
「どうしたの?理央、元気ないじゃん」
絵理が心配そうに理央の顔を覗き込んでくる。彼女は苦笑だけで絵理に返した。
彼女は全てを忘れていて、なにも覚えていない。
一馬の後ろに当然のようにあった席もあの日を境に完全に消えていた。
“存在が消える”……分かってはいても受け入れられない。
受け入れられる訳がない。
理央は今の気持ちを全く整理出来ないでいた。
「美香も元気ないし、どーしたの?
放課後ハル先輩のとこに景気付けでも行く?」
いつもテンションの高い美香が話にすら突っ込まず、疲れたように顔を突っ伏していたのでいよいよ可笑しいと思ったのか気分を盛り上げるために絵理はそう言ってくる。
「花町さん、ハル先輩もなにか元気ないみたいだからさ。今はやめたげて」
武はどうやらこの前文芸部部室に行ったらしく春紫苑も彼らと同じ状況であることを知ったらしい。
「ハル先輩まで?!」
絵理は本当に理由がわからない、といった感じで首を傾げていた。
無理はない。彼女は普通の人間なんだから。エースが消えたことに疑問なんて持つわけがないのだ。
そう……彼女は悪くない。
悪いのは……
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