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そんな葵の温かさを肌で感じて爽吾は思わず涙が出てきそうだった。
ーーでも、爽吾はその温かさに答える訳にはいかない。
「……ごめん、ありがとう……
でも君は葵じゃないよね?」
葵と名乗るその少女をそっと引き剥がして涙を堪えて爽吾はゆっくりと確信のある問いを向けた。
「……なに、いってるの?」
悲しそうな不安そうな残念そうなそんな表情を向けながらも僅かに少女は動揺する。
爽吾はその動揺を見逃さない。
「葵はね、もうこの世界にはいないんだよ。ここが例えば精神世界だとしても彼女はこんなところにはいない」
「なぜ、そう言い切れるの?」
「……だって、葵は僕に命をくれたから。
本当はあのとき僕も死ぬはずだった。けど、葵はそんな僕に命をくれたんだ。自分の命を懸けて僕を救ってくれたんだよ?
そんな葵がこんな狭くて苦しいところにいるわけがないんだ。
そろそろ教えてくれないかーー君は誰なんだい?」
爽吾の真摯なその言葉を黙ったまま聞いている葵。
いやーー葵を名乗る誰かーー
「……私ーー」
パァン!
彼女が何かを言おうとした瞬間のことだった。彼女自身が爽吾の目の前で一瞬にして弾きとんだのだ。
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