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「……ハァ……泉ーーどうしよう俺、迷っちゃったみたいだ」
ポケットに入れている彼女の泉の写真を見ながら呟く翔を放っておいてクリスは思考を巡らせてみる。
ーーなぜみんな倒れていたのだろうか?恐らく何か良くない幻術にでも取りつかれているのは確かだ。住民に呼び掛けても返事がなかったので恐らく彼らも一緒だろう。
その証拠にクリスは翔が倒れるまえ、解法の“符陣”を指示した。翔が気絶していたのはたまたま頭を後ろの壁に打ったという情けない理由からだった。
ーーそして一馬と理央と京がいないのはその術に打ち勝ったからと見て間違えない。
しかし翔は道に迷って一馬たちが先へ進めたと考えるならその幻術を超えたところに先へ進む道があったのではないかとクリスは予想する。
「……リス、クリス!!!」
「……あ、あぁ、なんだい?」
あまりにも考えすぎていて翔の声が聞こえなかった。ようやく聞こえた自分を呼ぶ声にクリスは慌てて答える。
「……行き止まり……なんだよなーー」
ぐるぐると同じところを回っていたと思えば今度は行き止まりか。本当にこの塔は謎だらけだ。
「……まぁ来た道を戻るしかーーないけどーー」
そこでクリスはとてつもない力を感知した。
「……何か、来るよ……」
「……何か……?!!」
クリスの言葉と同時に稲妻のように降ってきたのは体長20メートルは軽く超える蒼い獣だった。
そう、人界でいうのであればこれは“グリズリー”と呼ばれる獣だ。
熊みたいな風格だがその姿はファンタジーなど非現実世界にしか存在しない架空のモンスター。
ーーそれがなぜこんなところにーー
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