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向かいの歩道、こっちの騒ぎに気づきもしないで、ライバルの桜川(さくらがわ ももこ)桃子と腕を組んで歩いている。
『ゼニ~!! ゼニ~』
『カネ~カネカネ~!!』
那智「ふんん゛~~!!
(輝先輩? ……助け……あれ? 桃子!! 嘘!)」
全財産と生き恥を両手に、一心で踏ん張る那智には気が気ではない追い撃ち。
だが更に状況は那智を追い込み叩きのめした。
立ち上がれないくらいに……。
不意に立ち止まった池(いけ てる)輝が、桜川(さくらがわ ももこ)桃子にキスをする。
那智「ぅう゛……え……
(え!! え---!)」
思わず力が抜け、バッと鞄を剥ぎ取られる。
那智「はあ゛!! 返して!! 全財産! うそ!!」
鞄も気にかかるが、相変わらず未だベルトを鷲掴みされている。
鞄を盗り逃げる全身黄緑色タイツの数人を横目に、半泣きでベルトを死守する踏んだり蹴ったりの那智。
絶望の最中、視界は朦朧と鞄を盗って逃げる集団と、目の前でベルトを取り合う集団、更には片想いしていた輝と桃子のキスをランダムに捉え、涙が零れた。
心の奥が、木端微塵に割れ響き溶けてなくなる音がした。
その音は鐘と硝子と薔薇の花びらが地に落ちる音、更には一滴が湖に戻る時の音(ね)を併せ持っていた。
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