ヤマノケ

3/4
前へ
/220ページ
次へ
そしたら、白いのっぺりした何かが、めちゃくちゃな動きをしながら車に近づいてくるのが見えた。形は「ウルトラマン」のジャミラみたいな、頭がないシルエットで足は一本に見えた。そいつが、例えるなら「ケンケンしながら両手をめちゃくちゃに振り回して身体全体をぶれさせながら」向かってくる。めちゃくちゃ怖くて、叫びそうになったけど、なぜかそのときは「隣で寝てる娘がおきないように」って変なとこに気が回って、叫ぶことも逃げることもできないでいた。 そいつはどんどん車に近づいてきたんだけど、どうも車の脇を通り過ぎていくようだった。通り過ぎる間も、「テン…ソウ…メツ…」って音がずっと聞こえてた。音が遠ざかっていって、後ろを振り返ってもそいつの姿が見えなかったから、ほっとして娘の方を向き直ったら、そいつが助手席の窓の外にいた。近くでみたら、頭がないと思ってたのに胸のあたりに顔がついてる。思い出したくもない恐ろしい顔でニタニタ笑ってる。 俺は怖いを通り越して、娘に近づかれたって怒りが沸いてきて、「この野郎!!」って叫んだんだ。叫んだとたん、そいつは消えて、娘が跳ね起きた。俺の怒鳴り声にびっくりして起きたのかと思って娘にあやまろうと思ったら、娘が「はいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれた」ってぶつぶつ言ってる。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

825人が本棚に入れています
本棚に追加