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やばいと思って、何とかこの場を離れようとエンジンをダメ元でかけてみた。そしたらかかった。急いで来た道を戻っていった。娘はとなりでまだつぶやいている。早く人がいるとこに行きたくて、車を飛ばした。ようやく街の明かりが見えてきて、ちょっと安心したが、娘のつぶやきが「はいれたはいれた」から「テン…ソウ…メツ…」にいつの間にか変わってて、顔も娘の顔じゃないみたいになってた。家に帰るにも娘がこんな状態じゃ、って思って、目についた寺に駆け込んだ。夜中だったが、寺の隣の住職が住んでるとこ?には明かりがついてて、娘を引きずりながらチャイムを押した。
住職らしき人が出てきて娘を見るなり、俺に向かって「何をやった!」って言ってきた。山に入って、変な奴を見たことを言うと、残念そうな顔をして、気休めにしかならないだろうが、と言いながらお経をあげて娘の肩と背中をバンバン叩き出した。住職が泊まってけというので、娘が心配だったこともあって、泊めてもらうことにした。
娘は「ヤマノケ」(住職はそう呼んでた)に憑かれたらしく、49日経ってもこの状態が続くなら一生このまま、正気に戻ることはないらしい。住職はそうならないように、娘を預かって、何とかヤマノケを追い出す努力はしてみると言ってくれた。妻にも俺と住職から電話して、なんとか信じてもらった。住職が言うには、あのまま家に帰っていたら、妻にもヤマノケが憑いてしまっただろうと。ヤマノケは女に憑くらしく、完全にヤマノケを抜くまでは、妻も娘に会えないらしい。一週間たったが、娘はまだ住職のとこにいる。毎日様子を見に行ってるが、もう娘じゃないみたいだ。ニタニタ笑って、なんともいえない目つきで俺を見てくる。早くもとの娘に戻って欲しい。
遊び半分で山には行くな。
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