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両親を早くに亡くしていて、いまだ独り身である私の屋敷に出入りする者はいない。
帝の恩恵を賜っているおかげで得たこの無駄に広い屋敷が役立つ時がきた。
昼間は外に出ず、ひっそりと暮らしてさえいれば鬼を匿っていることは気付かれない。
子鬼がやって来て、既に三度目の晩を迎えていた。
「……セーサイ」
軒先から星の動きを読んでいると、キュッと着物の裾を引っ張られる。
見ると、子鬼がちょこんと隣に立って大きな目でこちらを見上げていた。
私の名を教えてからというもの、この子鬼はたどたどしい口調で何度も名を呼んでくる。
用がなくとも、ことあるごとに声をかけてきて、周りをちょこまかと走り回っている。
どうも私は懐かれてしまったらしい。
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