平安幻夜録~魂、満ちる刻~

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「ラン……!オレ、ラン!」 よほど嬉しかったのか、何度も自分で名前を口にしながら軒先を駆け回っている。 名などつければ余計に愛着が湧いてしまうというのに、全く私はどうかしているな……。 ──更に月日は過ぎた。 私のものと同じ食事を与えてはいるものの、蘭は目に見えて痩せ細っていく。 鬼が人間の食事で空腹を満たすなど無理な話。 かといって、人間の魂を喰わせてやる訳にもいかない。 元々華奢な身体が、ますます小さくなったような気がする。 日に日に元気がなくなっていく姿を、私は為す術もなく見守ることしか出来なかった。 蘭の為に、私に何か出来ることはないのだろうか……? 可愛い蘭を失うなど、私には耐えられそうにない。 そう、いつしか私は蘭を深く愛してしまっていた──。 「セーサイどうしたの?なんだか悲しそう」 軒先に座り込んでいた私の顔を覗き込んでくる蘭。 紅い瞳が心配そうに揺れている。 体調が悪いのは蘭の方なのに、私のことを気遣ってくれる。 鬼とは名ばかりで、蘭は本当に優しい。 だからこそ……失うのが辛くてたまらない。怖い。 何も答えることが出来ずに、自らの無力さにただただ涙がこぼれた。
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