370人が本棚に入れています
本棚に追加
「ラン……!オレ、ラン!」
よほど嬉しかったのか、何度も自分で名前を口にしながら軒先を駆け回っている。
名などつければ余計に愛着が湧いてしまうというのに、全く私はどうかしているな……。
──更に月日は過ぎた。
私のものと同じ食事を与えてはいるものの、蘭は目に見えて痩せ細っていく。
鬼が人間の食事で空腹を満たすなど無理な話。
かといって、人間の魂を喰わせてやる訳にもいかない。
元々華奢な身体が、ますます小さくなったような気がする。
日に日に元気がなくなっていく姿を、私は為す術もなく見守ることしか出来なかった。
蘭の為に、私に何か出来ることはないのだろうか……?
可愛い蘭を失うなど、私には耐えられそうにない。
そう、いつしか私は蘭を深く愛してしまっていた──。
「セーサイどうしたの?なんだか悲しそう」
軒先に座り込んでいた私の顔を覗き込んでくる蘭。
紅い瞳が心配そうに揺れている。
体調が悪いのは蘭の方なのに、私のことを気遣ってくれる。
鬼とは名ばかりで、蘭は本当に優しい。
だからこそ……失うのが辛くてたまらない。怖い。
何も答えることが出来ずに、自らの無力さにただただ涙がこぼれた。
最初のコメントを投稿しよう!